2025年3月2日日曜日

エクセルレベニューマネジメントツール:宿泊予約状況表 > 覚えておきたい宿泊業の基本指標(KPI)

宿泊予約状況表4:覚えておきたい(旅館こそもっと活用すべき)宿泊業の基本指標(KPI)

シート構成の全体像にて紹介した「水色シート:宿泊予約状況表」の読み方についての説明です。4回目は宿泊業の基本指標(KPI:key performance indicator)についてです。

宿泊業のレベニューマネジメントについて調べようとすると、理論の紹介サイトが山ほど出てきます。そうなる理由もわかるのですが、理論が完璧に頭に入っていないとレベニューマネジメントできないか?と言われるとそうとも言えず。ただ、出てくる用語に慣れておくことは必要だと思います。ここは用語に親しむことを目標に、できるだけ平易な説明を書きたいと思います。


要は「宿泊売上を伸ばしたい」ただそれだけなのです

ただ、「売上増えろー」といくら念じても増えるわけがないので、具体的に何をすればよいかわかるように「売上が増える」を要素分解して考えることにします。

「宿泊売上を伸ばす」を要素分解①
「宿泊売上を伸ばす」を要素分解①

宿泊業の場合、売られている宿泊プランは部屋に紐づいています。なので売上を伸ばすための要素として「たくさん部屋を売る」「部屋をなるべく高く売る」の2つがまずは考えられます。この「どちらかを実現する」でも良いですし、「両方実現する」でも良いです。「一方が減ってももう一方が増えて結果的に売上が伸びる」ならそれもOK。


「部屋あたりの売上を伸ばす」には

部屋の売上は、いくらの料金のお客様が何人その部屋に泊まったかで決まります。

「宿泊売上を伸ばす」を要素分解②-1
「宿泊売上を伸ばす」を要素分解②-1

ですから「一人あたりの宿泊料金を上げる」「一室の利用人数を多くする」の2つが方法として考えられます。こちらも「どちらかを実現する」でも良いですし、「両方実現する」でも良いです。

少々脱線しますが...
料金コントロールに集約されるホテルのレベニューマネジメントと違って、旅館や民宿のレベニューマネジメントで重要なポイントがここです。

まず「一人あたりの料金」は設定料金だけでなく、食事の有無(一泊二食以外にも、一泊朝食、一泊夕食、素泊まり...)や、料理のランクによっても大きく変動します。どの形態のプランを販売するか/売り止めるか をコントロールすることは、設定料金の変動だけでは到底なし得ない金額幅を生み出します。

次に「一室の利用人数」ですが、ベッドではない和室の場合一部屋1名~5名以上でも泊まれます。ホテルは基本1名か2名なのでこちらも大きな変動幅です。「だからどうした」と思われるかもしれませんが、ここの変化は思いのほか売上への影響が大きいのです。

例えば20室の宿で1名1万円のプランで満室にできたとして...
一室平均1.50人だと売上は30万円
平均2.00人だと40万円
平均3.00人だと60万円 と大きく変わってきます。

一室平均1.50人のまま60万円を達成するためには1名2万円のプラン(倍額)で満室にする必要がありますが、難しそうですよね。

「一室人数のコントロールと言われても、それはお客様の事情なので...」と思われるかもしれませんが、実務でコントロールすべき内容は簡単で「1名1室を売る/止める」「2名1室を売る/止める」の2種類だけです。

部屋が多く余るような日であれば一人旅まで取りに行って売る部屋数を少しでも増やす(一室人数は下がるけど宿泊単価と稼働率が上がる)。満館近くが予想される日ならば、最初は2名1室は止めておいてファミリー、グループの比率を上げる。残り1ヶ月を切ってきて満館が遠そうならば2名1室を開放し、夫婦・カップルを受け入れます。


「売る部屋数を増やす」と言われても...

製造業や小売業と違い、満館以上はどう逆立ちしたって売れないのが宿泊業の足かせです。

「宿泊売上を伸ばす」を要素分解②-2
「宿泊売上を伸ばす」を要素分解②-2

販売可能な客室数は基本的に毎日固定。ですから「売る部屋数を増やす」とは即ち客室稼働率100%(MAX)を目指すということです。


「宿泊売上を伸ばす」ためには

ここまでの要素をまとめると次の通りです。

「宿泊売上を伸ばす」を要素分解③
「宿泊売上を伸ばす」を要素分解③

「一番高位の料金プラン」「すべて定員宿泊」「全部屋が埋まる」が毎日続けば文句なしなのですが、当然そんな訳にはいきません。むやみに高くすれば売れる数が減るのは世の常です。
だから日によって異なる需要を見ながら「どこを伸ばして(どこかを落としてでも)売上を伸ばすか」を考えることになります。これがレベニューマネジメントです。
※レベニューマネジメントの考え方については「旅館のレベニューマネジメントとホテルのレベニューマネジメントは別物」ページに掲載したセミナー資料や「はじめに もしくは あとがき」ページ等を御覧ください。今回は用語についての説明なので詳細は割愛します。

これらの要素それぞれに名前が付いています

「宿泊売上を伸ばす」要素とそれぞれの名称
「宿泊売上を伸ばす」要素とそれぞれの名称

A.一人あたりの料金UP ⇒ 結果は「(平均)宿泊単価」にあらわれます。
B.一室の利用人数UP ⇒ 結果は「一室平均人数(一室あたり人数)」にあらわれます。
C.客室稼働率UPは、そのまま「客室稼働率」です。

D.一部屋あたりの平均売上のことを客室単価(ADR)と呼びます。これはAの成果とBの成果のかけ合わせだということがわかります。

「宿泊予約状況表」ではレベニューマネジメントのために、主に前年同月(同週)同曜日の予約売上・実績売上との比較を行いますが、単純に売上が勝っている・負けているだけではあまり発展性がありません。どの要素が勝ち(負け)に影響しているのかを知ることが販売施策検討の鍵なのです。


もっと詳しく知りたい!という方は...

用語の意味についての説明はここまでです。エクセルレベニューマネジメントツール「予約の動きをサトルくん」にもこれらの用語が出てくるので参考にしていただければと思います。

以下は計算方法を含めもっと深く知りたい方向けの説明です。

宿泊基本指標の計算方法と関係性
宿泊基本指標の計算方法と関係性

まずは各指標値の計算方法です。

A.宿泊単価は「一人平均いくらで泊まったか」なので、売上を人数で割ります。
B.一室あたり平均人数は、その名の通りで人数を販売室数で割ります。

ここでA×Bについて、昔懐かし”約分”をすると... 売上 ÷ 販売室数 となり、これはつまりD.一部屋あたりの平均売上(客室単価:ADR)ということになります。

一方、C.客室稼働率は「全客室数のうちどれくらい売れたか」なので、販売室数を販売可能な客室数で割ります。ここで出てくる販売可能客室数(有効客室数とも呼ばれます)ですが、年間の客室稼働率を算出する場合には「販売可能客室数=自館の総客室数×365日」で算出します。

さて。客室単価(ADR)と客室稼働率をかけ合わせるとどうなるでしょうか。この計算式も約分をすると、売上÷販売可能客室数という式がでてきます。これは「一部屋あたり一日あたりの平均売上」という意味です。RevPAR(Revenue Per Available Roomの頭文字)と呼ばれます。

レブパーって何よ?一部屋あたり一日あたりの平均売上がわかったところでどうなるの?と思うわけですが、これは総客室数の異なる複数の宿を比較するときに有効です。100室の宿と20室の宿を単純に売上で比較するとどうしても100室の宿の方が優秀に見えてしまいますが、「一部屋あたり一日あたりの平均売上:RevPAR」で比較すると客室規模関係なく比較できるというわけです。


ここで主に旅館向けPMSのベンダーさんに一個注文。ここまでレベニューマネジメントのための指標と計算方法を説明してきましたが、計算のもとになる数字は4つしかないということに注目してほしいです。4つの数字とは「宿泊売上」「宿泊人数」「販売室数」と「総客室数」です。この4つがわかればあとは全て計算で出せるのに、この情報が揃っていない(一部が欠けている)帳票が多すぎるのです。

例えば「宿泊売上」「宿泊人数」「客室稼働率」が出力されている帳票だと「一室あたりの人数」と「客室単価:ADR」が算出できません。客室稼働率×総室数で、欠けている「販売室数に近い数字」は出せますが、丸まった数字をもとにしているため正しい数字にはなりません。旅館の売上アップにおいて「一室あたり人数」「ADR」の要素は非常に大事な指標なのですが、ないがしろにされているなぁという印象です。


算出した各指標値の「端数をどこで丸めるか」も大事なポイント。ちゃんと意味があって決まっているものなのです。

先に答え(決め事)を書きます。

A.宿泊単価:小数点以下は不要で「円単位」※ADR、RevPARも「円単位」

B.一室あたり平均人数:小数第二位までで「X.XX人」

C.客室稼働率:小数第一位までで「XX.X%」

円単位のものを小数点以下まで表示して20,000.4円などと表記すると見づらい、というのももちろんありますが、以下の様な例を見ると理にかなった表記なのだとわかります。


例)50室の宿で宿泊単価2万円、一室平均2.50人、稼働率60.0%の宿があったとします(いずれも年平均)。年間売上は、20,000円×2.50人×60.0%×(50室×365日)=547,500,000円です。


ここで、例えば宿泊単価の表記を少数第一位まで管理するとします。平均値が20,000.0円が20,000.1円に上がったとして年間売上がいくらアップするかというと...

20,000.1円×2.50人×60.0%×(50室×365日)=547,502,737.5円 アップ差額はたったの2,738円でほとんどインパクトがありません。見づらいのを我慢して小数点以下まで管理する必要は無いということです。


次いで、一室あたり人数を小数第一位までしか管理していなかったとします。2.5人が2.6人に上がるとどうなるかというと...

20,000円×2.6人×60.0%×(50室×365日)=569,400,000円 アップ差額が2190万円にもなってしまうので、これでは粗すぎることがわかります。

逆に小数第三位まで管理して2.500人が2.501人になったとすると...
20,000円×2.501人×60.0%×(50室×365日)=547,719,000円 差額21.9万円。5億4千万円の売上に対してはインパクトが小さすぎる。


最後に、客室稼働率を小数点まで管理しない場合。60%⇒61%の変化では...

20,000円×2.50人×61%×(50室×365日)=556,625,000円 差額が912.5万円にもなるので粗すぎる。

少数第二位までの管理で60.00%⇒60.01%の変化では...

20,000円×2.50人×60.01%×(50室×365日)=547,591,250円 差額9.1万円はインパクトが小さすぎです。


実は、これは単なる「管理上の決め事」という話にとどまりません。

この宿で、次年度の年間売上予算を各指標値からの積み上げで作ることを考えてみればイメージしやすいと思います。

最終桁の数字を1上げるだけで年間売上が1千万円違ってくる様な数字の捉え方だとざっくりしすぎていますし、逆に1上げても数十万円程度しか変わってこないのであれば、その設定値1の違いは何か意味があるの?という話になってしまいます。

そして、一室あたり人数の影響力がいかに大きいかがここでもわかります。数字だけ見ると0.01人の違いが何なのという気分になりますが、年間売上にすると219万円もの差になるのですから。※20,000円×2.51人×60.0%×(50室×365日)=549,690,000円


旅館向けの各社PMS帳票を見ていると、稼働率表記に小数点がなかったり、そもそも一室あたり人数の表記がないものが殆どだったりします(ホテル向けPMSだと英略語表記で必ずあります)。

ホテルだからとか旅館だからとかは関係なく、宿泊業の売上指標の考え方は同じです。

そして宿泊単価に関連してくるプランバリエーションの多様性、一室あたり人数のインパクトが圧倒的に旅館の方が高いことを考えると、むしろ旅館こそこれら指標値をしっかり見るべきなのではないでしょうか。

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