はじめに もしくは あとがき
旅館や民宿も「売り方が上手」でないと勝ち残れない時代に
「コロナ禍」という言葉は既に過去のものとなった感がありますが、このコロナ禍によって宿泊施設の集客に関する事情は激的に変化しました。
一部の例外はありますが、予約の大部分が「個人」の「Web予約」に変わりました。
宿泊販売の主体が誰か?という見方で言えば、旅行会社から宿泊施設に完全に移ったと言って良いでしょう。
販売の主体になるということは、宿泊商品を作り、料金を定め、写真や紹介文を考え、販売サイトに在庫を置くことを自分たちで行うということです。そして、これがうまくできるかどうかで勝敗が大きく分かれます。お部屋や温泉、料理、サービスの良さ だけでなく「売り方が上手」でないと勝つことは難しい時代になりました。
Web販売の「おまかせ外注」では乗り越えられない壁
Web販売のアドバイスをしてくれたり、手を動かしてくれる様な業者・個人事業主は大勢います。そこにお金をかけることで、注目を集めそうな宿泊プランを作り、きれいな写真とキャッチーな文言でOTAや自社サイトを飾り、更にサイトコントローラを操作して在庫を切らすことなく販売するところまでやってくれます。Web販売で専属の担当を抱える余力の無い状況で、最初の一歩的に力を借りるには非常に有効な手段でしょう。
そして、この業務を手広くやっている業者は喜んで協力してくれるでしょう。Webで売れた分の数%をコミッションとして持って行く様な業者なら尚更です。最初の一歩⇒伸びしろが大きい⇒儲けも大きいからです。
しかし、力を借り始めてから1年・2年経過し、Web売上の成長が緩やかになってくると、ある壁が現れます。そこには「客室を売る」という業態ならではの特殊性も絡んできます。
例えば食品スーパーでイメージしてみます。
元々棚がガラガラで地味な商品しか並んでいなかった状態から、魅力的な商品が棚に潤沢に並び、POPや陳列が賑やかな売り場に変われば、それは売上が伸びるでしょう。そこまでは、宿泊業でもたどり着ける最初の一歩。
スーパーであれば、棚の陳列を工夫してもっと多くの商品を並べたり、売れ筋商品の棚を増やして死に筋商品の棚を減らしたり、商品補充の回数を増やしたりして更に多くの売上を狙うこともできるでしょう。
宿泊業が小売業と根本的に違うのは、たくさん売れる日だからといって客室の追加補充ができる訳でもなく、逆にあまり売れない日だからといって仕入を減らす訳にもいかないところです(客室数は日によって増やしたり減らしたりできない)。
20室の宿であれば「賞味期限1日」の客室を毎日強制的に20室仕入れて売り場に並べているようなものです。変わるのは、並べた20室のうちいくつ売れたのか。仕入れたものが売れ残れば、コストだけが加算されるということになります。
となると、次のステップでは「売れる日」と「売れない日」の売り方の使い分けということになります。
売れる日であれば「一部屋あたりの売上が多くなる宿泊」で客室を埋めていけばもっと売上が伸びるかもしれない(2名1室よりは3名1室、一泊朝食よりは一泊二食、安いプランよりは高いプラン)。
逆に売れない日であれば「一部屋あたりの売上が少ない商品」でも売っていけば、売れ残りを減らせるかもしれない(一人旅歓迎、素泊まり・一泊朝食歓迎、早割・訳ありもOK)。
売れそうな日、売れなさそうな日を予測して、いわば真逆の売り方を使い分ける必要があります。これを外部の業者に「おまかせ」できるかといったらそんなことはなく「指示してもらえればその通りやります」になると思います。これが「おまかせ外注の壁」です。おまかせにできないのであれば、指示だけでも自分たちでできるようになるしかないのです。
※この様な需要の強弱に応じた売り方の使い分けは、レベニューマネジメント(イールドマネジメント)と言われているものの実作業そのものです。
旅館や民宿のレベニューマネジメントは航空機やビジネスホテルよりも「できることが多い」
レベニューマネジメントというと、需要に応じた「料金の上げ下げ」をイメージされる方が多いと思います。「そもそも航空業界から始まった」話や、「都市部のビジネスホテルがインバウンド需要で高騰している」ニュースもよく聞かれることと思います。
料金コントロールは大事なポイントではありますが、旅館や民宿で考えた場合、実はこれ以外にもできることがたくさんあります。すでに上述していますが、「1名1室、2名1室、3名~1室のどこまでを販売するのか/しないのか」「素泊まり・一泊朝食・一泊二食のどこまでを販売するのか/しないのか」「早割・訳あり等の安価なプランは販売するのか/しないのか」といったことが代表例です。
「同じ内容のプランなのに頻繁に料金を変えるのはちょっと...」と身構えてしまう様な宿でも、上記の様なプランの出し入れなら取り掛かりやすいかもしれませんね。
レベニューマネジメントのポイントは3つ
レベニューマネジメントと聞くと難しそうに聞こえますが、ポイントは3つあると思っています。いずれにも共通するキーワードは「需要の予測」です。
①スタート時点の販売をどうするか決める。
何月の平日はどの料金ランク、土曜日はどの料金ランクにする といった料金カレンダーは作成している宿が多いと思います。
スタート時点の販売検討というと、この料金カレンダーの見直しが頭に浮かびますが、これをフィーリングでざっくりとやってしまうのはオススメしません。強気に出過ぎて高い料金設定からスタートしてしまうと、仮にその後「思ったように予約が伸びない」となった場合に打つ手がなくなってしまうからです。あとから割安なプランを提示してしまうと乗り換えられてしまいますし、「この宿は直前になると安いプランが出ることがある」と認識されてしまうことで、前もって予約を入れてくる人が減ってしまう可能性があります。
スタート時点の販売について、まずやってみたいことは「高稼働率が達成できそうな日については、一部屋あたりの売上が少なくなるパターンを売り止めておく」ことです。
・1名1室、2名1室はスタート時点では売らない。3名1室以上のみ販売する。
・素泊まり、一泊朝食もスタート時点では売らない。一泊二食のみ販売する。
・早割や訳ありプランは適用外。最初だけでなく最後まで売らない。
逆に、閑散期の平日などは上記は「全て売る」からスタートすることになります。
「高稼働が達成できそうな日」を予測することがまさしく需要予測ですが、これを考えるために前年同週同曜日の宿泊実績を参考にします。上の例(左)では去年の3月の日別客室稼働率を載せています。
「土曜日(休前日)は80%以上の実績だから、スタートは3名1室以上二食付の販売のみに留めてみようか」「月の後半も春休みで需要が高いので同様で行こうか」「春分の日は去年と違い木曜日にあって金曜を休めば4連休にできる並びなので、20日21日は少し上の料金ランクにしてみようか」といった策が思いつきます。
②予約の伸び方に応じて方針転換する。
高稼働率を期待してスタートした日の予約が思ったように伸びないのであれば、売り止めていたパターンを順に開放していきます。まず2名1室の開放を行い、それでも動かないようであればその他も開放してゆきます(ただし早割・訳ありの開放はしません、もちろん料金ランクダウンもしません)。
止めていた宿泊パターンは、旅行する側で考えるとどれも「身軽」な人達です(予約のリードタイムが短い)。なので1~2週間前になってプラン開放しても予約をピックアップできる可能性があるのです。
逆に、非常に予約の伸びが良く高稼働率が見えてきたような時は、料金ランクのアップを検討します。繁忙期はもちろん、閑散期の土曜日などでもこのケースがありえます。
「1名1室、2名1室を途中から売り止めればよいのでは?」と思われるかもしれません。この打ちては、1ヶ月以上前など早い段階であれば有効ですが、1~2週間前だとハイリスクな選択です。
3名~1室の宿泊パターンは、上記とは逆に「身軽ではない」人達です。なので1~2週間前になってその様な人達だけに制限してしまうと予約をピックアップできる確率は下がるでしょう。
予約の伸び方を見て「このまま行くと...」を予測することも需要予測です。伸び方を知るにはブッキングペースが重宝します。前年同等タイミングでの予約の入り方を比べることも大事です。
③結果は必ず確認する。
都市部のビジネスホテルやインバウンド比率の非常に高いエリアでは全く事情が異なりますが、一般の地方旅館・民宿などの需要は前年同週同曜日と非常によく似た動きをします。
この波の1日1日について「少しでも前年同曜日を超えてゆこう」を積み重ねる訳ですが、この取り組みの成果について定期的に振り返りをおこなうことが重要です。改善ポイントが見つかれば、次に同様のシチュエーションとなったときの対応力が上がります。
例えば...
上記は高需要日の読み違いでもったいないことをしたかも...の例です。今年(右側)の2月9日(日曜)に注目してください。前年同曜日を左に並べると、昨年は3連休の中日だったところが「今年は通常土日と休日に挟まれた平日」にあたります。
これをカレンダー通りに読み取り、9日を通常の日曜日と同様の販売をしました(日曜料金、2名1室も最初から開放)。
蓋を開けてみれば10日(月)に休みを取っての4連休並の需要となりました。あれよあれよという間に9日も予約で埋まってしまい、前年同曜日(11日)と比べて「稼働室数は去年より多かったが売上では93.5万円も負ける」結果となりました(敗因は宿泊単価と一室平均人数が大幅に低かったことによるもの)。
この様な振り返りができていると、次に同じ様な日の並びとなったときの勝率が上がります。
予約専任者を抱えて高額なシステム投資をせよという話なのか
宿泊施設の事情によって受け止め方は変わってくるかもしれませんが、予約専任者が居なくても、高額なシステムを購入しなくてもスタートできる、敷居の低い旅館・民宿向けのレベニューマネジメントを普及させたいと考えてこのサイトを立ち上げています。
①Microsoft Excel(2021以降のバージョンまたは、Microsoft 365に含まれるもの)が入ったPCであれば使えるレベニューマネジメントツールがダウンロードできます。
②ツールの使い方、レベニューマネジメントの具体例について、本サイトで順次記事掲載します。
③ツールの試用期間を300日間、7000日分の予約状況登録までとしています。実際に運用をしてみて、自館にとって有用か、使いこなせるかをじっくり判断していただけます。
ここまでは敷居の低い話ですが、次の様なハードルもあります。
④「今月・来月・再来月程度の日別の予約状況」を1週間に一度や5日ごとといったサイクルでツールにコピー&貼り付け登録してゆく作業が発生します(環境が良ければ1回につき10~20分程度の作業)。
ただ、以下の要件がクリアできていない場合は断念していただくほかないかもしれません。
1.予約管理機能のあるフロント会計システム(PMS)が導入されていること。
2.フロント会計システムから、予約状況として最低限「宿泊予約売上(税抜)・予約人数・予約室数」の日別集計値がデータで出力できること。
3.予約がシステムに入力されていること(名前と宿泊料金・人数・室数だけで良い)。
1.について(PMSのスペック不足):
今どきは、何かしらのフロント会計システムが導入されていることと思いますが、簡易的なものや古いシステムだと「請求/領収書を出力すること」を目的に、「宿泊明細や部屋の登録はチェックインが終わってから入力」する想定になっているかもしれません。
2.について(PMSの仕様が残念):
予約管理機能のあるシステムであっても「予約帳票が紙でしか出力できない」「日別の予約状況はデータ出力できるが人数・室数しか出力されない」「売上計上がチェックアウト日の設定になっていて、日別の予約状況も1日ズレて出力される」といったケースがあります。
この様な場合、サポートセンターへの問い合わせと設定変更で改善できるかもしれません。逆に、営業担当へカスタマイズを依頼して費用をかけないと解決できないかもしれません。
3.について(紙台帳でしか予約状況が見られない):
TL-リンカーンや手間いらず、ねっぱんといったサイトコントローラとPMSを繋いでいるケースであっても、電話予約などは都度システムに入力していない(チェックインしてから入力)ケースはよく見られます。要は空室管理と予約情報は「紙台帳で管理」から変わっていない状況。
「紙台帳を捨ててシステムで管理」まで一気に進むことが不安というのはわからないこともないです。また「全員がシステムで空室状況を見たり入力ができるわけではない」というのも実態でしょう。
せめて、電話予約も含め「宿泊者の名前と宿泊料金・人数・部屋数」これだけでも、その日のうち~2・3日以内にはシステムに登録されている というところまで進むことはできないでしょうか。
・予約備考に記載する様な内容、手配品目などはいちいちシステム入力はせず、チェックイン後の入力でもいい。
・紙台帳管理だけど、電話で受けた予約(新規・変更・キャンセル)については1件ずつ紙に残して(定型フォーマットの予約受付票を作っておくのがオススメ)別の誰かがまとめて「宿泊料金・人数・部屋数」だけシステムへまとめて入力できる様に溜めておく。
・サイトコントローラから取り込まれたものも「宿泊料金・人数・部屋数」に関わることはその日のうち~2・3日以内には処理。
要は「料金(宿泊売上)・人数・部屋数」の日々の合計値だけはシステムの自動集計で取れる様にしたいのです。
さて。長い前置きは終わりにします。
この「一人プロジェクト」が業界の底上げの一助となれば幸いです。
次の記事はツールのダウンロードページとなる予定です。
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